story
淡く切ないブルーポルノだった
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「カリフォルニア・ドリーミング」
いったん「カリフォルニア・ドリーミング」を聴きたくなったら、初めて音楽にハマった思春期の高校生みたいに聴きまくって、その揚げ句に「恋する惑星」のフェイ・ウォンのように恋をしたくなる。もちろん、トニー・レオンのような優しい笑顔の男性と。 これは私自身のことなのか、あるいは「カリフォルニア・ドリーミング」が耳から離れなくなってしまった私の妄想なのか。 それとも世界の女性が持っている普遍的な傾向のことなのか。 ただひとつ言えるのは、かつて確かにあった「トニー・レオン」を取り巻く狂想が、自分の幼い頃の思い出の背景を彩っていたこと。 スピードの速い今の世界と、昔の色鮮やかでゆったりとした世界が、やっぱりまだどこかでつながっていると信じたい、そう思える自分がまだいる。だからこそ私は彼を愛し、恋をする。
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「ボビー・フィッシャーをさがして」
どうして一番大切なものは、いつも自分の手から消えてしまい、みすぼらしいものだけが残るんだろう。 子供の頃からことあるごとに、ずっとその疑問が頭から離れない。私はデビュー1周年記念日を迎えても、やっぱりまたそのことに頭を悩ませている。 どうして大切にしていたものがいつのまにか消えて無くなってしまうのか。 どうして自分は今ここにいるんだろう? 大人になってわかったのは、いくら考えても答えがないこと。 だからせめてもの私自身へのプレゼントは、今を一緒に楽しく過ごせる男の子。 現場帰りの新宿で、私は安藤もあとして見知らぬ男と待ち合わせる。
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「東京ゲートブリッジ」
大好きなカブトムシを探していた私は、早く眠気を覚ましたいだけだった。 車を降りてみると、そこには海と東京と千葉の夜景が一望できる東京ゲートブリッジがあって、今までの東京生活を振り返ってしまう。そういうのは一番嫌いなはずなのに。 いくら思い返しても絶対に戻ることはないのに。 でも思い返しちゃう。 昔の思いが鮮明になればなるほど、過去の私は、今の私になるのを望んでなさそうなのが痛いほど胸に突き刺さる。 いつ終わるのかわからない現場がやっと終わった午前4時の冷たい雨のせいで、軽い神経衰弱になってただけだと思ってた。 でもその神経衰弱はもしかしたら子供のころから治ってなかったのかも知れない。 そう思うと私は少し自由になれた気がした。
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「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」
昔と今。私を取り巻く環境は、言葉で説明できないほど変わってしまったけど、男の趣味だけは高校生の頃と何も変わらない。 体は大人だけど、心は少年。そんな男とずっと一緒にいたい。でも少年は必ず大人になる。 だから私はいつも1人になる。私の話は、端的に言ってしまうと本当にそれだけの話。 なんの取り柄もなく、わがままで、ずるくて弱くて、純粋な男。その彼の必死さが好きなのかもしれない。 いや、本当は特に興味もないのかもしれない。 キンモクセイの香りを嗅ぐと、いつもそういう堂々巡りをしてしまう。それだけの話。
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「フィッシング ・ウィズ・サムライ」
将来のために何かをすることは、尊いことだって知ってはいたけど、受験勉強も、面接も、就職活動も嫌いだった。 中学生の頃から、海に竿をたらして取り留めのない妄想に身を任せることが一番の喜びだった。 それは今でも変わらない。 別に魚が好きなわけじゃない。釣り上げた魚を食べたいわけでもない。 記念に写真を撮るわけでもない。人に自慢をするわけでもない。 魚釣りが好きなだけ。 多くの人は「釣りの何が面白いの?」「釣りをしてどうなりたいの?」と聞いてくる。 いつも私は適当な理由をでっちあげて悲しい気持ちになる。 その男もそうだった。それなのになぜか私は悲しくならなかった。 多分、恋と釣りは一緒なんだと思う。